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「ピュアなエレクトロニック・ミュージック」という小綺麗さにまとまらない陰のさらに影の部分を

パイ・コーナー・オーディオ(以下PCA)とは、マット・ジョンソンやトレヴァー・ジャクソンを始めとして、様々なジャンルの作品に携わってきたロンドンのミロコ・スタジオ所属のエンジニア兼マニュピレーター、マーティン・ジェンキンスの別名であり、自らが主宰するレーベル、パイ・コーナー・オーディオ・トランスクリプション・サーヴィスからのカセットシリーズ『The Black Mill Tapes』(うち2本がタイプから2枚組LPで再発)に続く、初の本格的なアルバムとなる。

そもそも、BBCのテレビ番組の映像と音響効果に影響を受け、ギターのフィードバック音をMTRで多重録音し始めたという、マーティン=PCAの魅力とは、シンセの鍵盤のタッチの強弱やミックスによって音の遠近感を織り込んだようなアンビエント・ドローンと、こないだ来日したダニエル・バルデリだったら喜んでプレイしそうなユルくニブい四つ打ち──つまりはただ一つの鍵盤のキー、もしくはドラム・マシンのパッドから広がる音の粒子的な広がりと、カセット・テープ特有のざらついたヒスノイズで包んだ侘び寂びな音響空間にある。また、BBCの映像云々という影響源と絡めて言うならば、『Black Mill Tapes』シリーズも含め、ジャケットのアートワークの素晴らしさにも触れておくべきだろう。まさに隅々まで鑑賞すべき音楽なのだ。


だが、もし、これを鑑賞物とするならば、もう一つの側面も書いておかなければならない。「ピュアなエレクトロニック・ミュージック」という小綺麗さにまとまらない陰のさらに影の部分を。

インタビューによれば、PCAの音楽制作の軸となっているのは前出のカセットのタイトルである「黒いミル・テープ」なるものだ。本人曰く「それは録音のコレクションで、1970年代終わりから1980年代半ば頃のもの。それらは、ヘッド・テクニシャンによって愛をこめて復元されアーカイブに保管された」のだという。

実際『Black Mill Tapes』の裏ジャケには「A selection of 1/4" and cassette tapes sourced and transferred by our Head Technician.」。『Sleep Games』では「Recorded and Produced At Black Mill By Head Technician with Assistance From Martin Jenkins」とクレジットされている。つまり、あくまでマーティンはアシスタント、PCAの音楽は自分以外の誰かがが作ったということらしい。
だが、言うまでもなく、ヘッド・テクニシャンとはマーティン自身のことである(ちなみに「ヘッド」とは「頭脳」と「テープヘッド」のダブルミーニングと思われる)。それにしても、彼がフェイバリットに挙げるドレクシアのように匿名性を遵守した上でというならともかく、自らのキャリアも憂いを帯びたような顔写真も公開しておきながら、なんなんだろう、まどろっこしい設定は?

彼はインタビューで主な影響として、ドレクシアの他、初期ヒューマン・リーグ(ザ・フューチャー)、ジョン・カーペンター、クラフトワーク、ハルモニア、カール・クレイグなどを挙げていて、そこらへんはまあわかるんだが、オールタイムベストには以下のものを挙げている。

・The Rolling Stones - Their Satanic Majesties Request
・The Pretty Things - S.F. Sorrow
・Black Sabbath - Black Sabbath
・Led Zeppelin - Led Zeppelin I
・Harmonia - Muzik von Harmonia

……って、ハルモニア以外ベクトルが全然違うじゃねえか! そんな意見もあろう(個人的にそう思っただけだが)。しかし、これらのアルバムとPCAにはいくつもの共通点がある。それは「こことは違うどこか」としてのSF、オカルティズムやドラッグなどを通した異世界指向。何よりも音の間を活かしたエンジニアリングや実験的なアプローチ。そして、なによりとってつけたような過剰なテーマやイメージを打ち出したコンセプシャルなものであるということ。それらへの憧憬がマーティンがPCAをフィクションで包んだ理由なのではないだろうか。

なお、SFという観点でひとつ付け加えておくと『Sleep Games』のライナーにはJ.G.バラードからの引用が載っている。また自分の心にある別人格という視点に立つならば、PCAとヘッド・テクニシャンとマーティンの関係性はフィリップ・K・ディックっぽいような気も……。

実は個人的にバラードもディックも代表作と言われるものを読んだくらいのもので、実はあんまよく知らないのだが、バラードの言葉でこんなものがある。

もし誰も書かなければ、私が書くつもりでいるのだが、最初の真のSF小説とは、アムネジア(健忘症、あるいは記憶を失った)の男が浜辺に寝ころび、錆びた自転車の車輪を眺めながら、自分とそれとの関係の中にある絶対的な本質をつかもうとする、そんな話になるはずだ。
(Wikipedia)

その言葉に倣うなら、その対象が「錆びた自転車の車輪」ではなく、雑然と積まれた古ぼけた1/4インチテープとカセットテープだったらどうであろう? マーティンは自分を無にし、ヘッド・テクニシャンとPCAのコンセプトを作り上げ、自分と音楽の関係性の絶対的な本質をつかみ描こうとしたのだ。そんな気がしてならない。

pcasleep.jpgpcamill.jpg
Pye Corner Audio
L:『Sleep Games』(Ghost Box)
R:『The Black Mill Tapes Volumes 1 & 2』(Type)
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RECORDer編集長。
ひとりE.A.R.(永遠に丁稚)

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