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「ピュアなエレクトロニック・ミュージック」という小綺麗さにまとまらない陰のさらに影の部分を

パイ・コーナー・オーディオ(以下PCA)とは、マット・ジョンソンやトレヴァー・ジャクソンを始めとして、様々なジャンルの作品に携わってきたロンドンのミロコ・スタジオ所属のエンジニア兼マニュピレーター、マーティン・ジェンキンスの別名であり、自らが主宰するレーベル、パイ・コーナー・オーディオ・トランスクリプション・サーヴィスからのカセットシリーズ『The Black Mill Tapes』(うち2本がタイプから2枚組LPで再発)に続く、初の本格的なアルバムとなる。

そもそも、BBCのテレビ番組の映像と音響効果に影響を受け、ギターのフィードバック音をMTRで多重録音し始めたという、マーティン=PCAの魅力とは、シンセの鍵盤のタッチの強弱やミックスによって音の遠近感を織り込んだようなアンビエント・ドローンと、こないだ来日したダニエル・バルデリだったら喜んでプレイしそうなユルくニブい四つ打ち──つまりはただ一つの鍵盤のキー、もしくはドラム・マシンのパッドから広がる音の粒子的な広がりと、カセット・テープ特有のざらついたヒスノイズで包んだ侘び寂びな音響空間にある。また、BBCの映像云々という影響源と絡めて言うならば、『Black Mill Tapes』シリーズも含め、ジャケットのアートワークの素晴らしさにも触れておくべきだろう。まさに隅々まで鑑賞すべき音楽なのだ。


だが、もし、これを鑑賞物とするならば、もう一つの側面も書いておかなければならない。「ピュアなエレクトロニック・ミュージック」という小綺麗さにまとまらない陰のさらに影の部分を。

インタビューによれば、PCAの音楽制作の軸となっているのは前出のカセットのタイトルである「黒いミル・テープ」なるものだ。本人曰く「それは録音のコレクションで、1970年代終わりから1980年代半ば頃のもの。それらは、ヘッド・テクニシャンによって愛をこめて復元されアーカイブに保管された」のだという。

実際『Black Mill Tapes』の裏ジャケには「A selection of 1/4" and cassette tapes sourced and transferred by our Head Technician.」。『Sleep Games』では「Recorded and Produced At Black Mill By Head Technician with Assistance From Martin Jenkins」とクレジットされている。つまり、あくまでマーティンはアシスタント、PCAの音楽は自分以外の誰かがが作ったということらしい。
だが、言うまでもなく、ヘッド・テクニシャンとはマーティン自身のことである(ちなみに「ヘッド」とは「頭脳」と「テープヘッド」のダブルミーニングと思われる)。それにしても、彼がフェイバリットに挙げるドレクシアのように匿名性を遵守した上でというならともかく、自らのキャリアも憂いを帯びたような顔写真も公開しておきながら、なんなんだろう、まどろっこしい設定は?

彼はインタビューで主な影響として、ドレクシアの他、初期ヒューマン・リーグ(ザ・フューチャー)、ジョン・カーペンター、クラフトワーク、ハルモニア、カール・クレイグなどを挙げていて、そこらへんはまあわかるんだが、オールタイムベストには以下のものを挙げている。

・The Rolling Stones - Their Satanic Majesties Request
・The Pretty Things - S.F. Sorrow
・Black Sabbath - Black Sabbath
・Led Zeppelin - Led Zeppelin I
・Harmonia - Muzik von Harmonia

……って、ハルモニア以外ベクトルが全然違うじゃねえか! そんな意見もあろう(個人的にそう思っただけだが)。しかし、これらのアルバムとPCAにはいくつもの共通点がある。それは「こことは違うどこか」としてのSF、オカルティズムやドラッグなどを通した異世界指向。何よりも音の間を活かしたエンジニアリングや実験的なアプローチ。そして、なによりとってつけたような過剰なテーマやイメージを打ち出したコンセプシャルなものであるということ。それらへの憧憬がマーティンがPCAをフィクションで包んだ理由なのではないだろうか。

なお、SFという観点でひとつ付け加えておくと『Sleep Games』のライナーにはJ.G.バラードからの引用が載っている。また自分の心にある別人格という視点に立つならば、PCAとヘッド・テクニシャンとマーティンの関係性はフィリップ・K・ディックっぽいような気も……。

実は個人的にバラードもディックも代表作と言われるものを読んだくらいのもので、実はあんまよく知らないのだが、バラードの言葉でこんなものがある。

もし誰も書かなければ、私が書くつもりでいるのだが、最初の真のSF小説とは、アムネジア(健忘症、あるいは記憶を失った)の男が浜辺に寝ころび、錆びた自転車の車輪を眺めながら、自分とそれとの関係の中にある絶対的な本質をつかもうとする、そんな話になるはずだ。
(Wikipedia)

その言葉に倣うなら、その対象が「錆びた自転車の車輪」ではなく、雑然と積まれた古ぼけた1/4インチテープとカセットテープだったらどうであろう? マーティンは自分を無にし、ヘッド・テクニシャンとPCAのコンセプトを作り上げ、自分と音楽の関係性の絶対的な本質をつかみ描こうとしたのだ。そんな気がしてならない。

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Pye Corner Audio
L:『Sleep Games』(Ghost Box)
R:『The Black Mill Tapes Volumes 1 & 2』(Type)

怒りて言う、音像のショック感こそすべて

ハイプ・ウィリアムスの黒い方、ディーン・ブラントのアルバムはソロとして初めての作品にも関わらず、当然のように本体とほとんど代わり映えがない印象を受ける。どっかで聞いたような不協和音が鳴り響くホラーシネマ・コア「Direct Line」。テキトーに打ち込まれ弾かれたシンセとリズムとギター、そして相方のインガ・コープランドの歌が陰鬱な気分にさせる「The Narcissist」。また、本作ではブラントが積極的にボーカルをとっているのだが、ラストの「Coroner」では、以前「ラップは嫌い」とインタビューで言ってたにも関わらず、さらにだらしなくなったリル・Bみたいなラップまで披露。大事なネジが緩んで崩壊寸前なドローン・シンセ・ポップが、ボンヤリとした音像でただ雑然と刻まれた溝に記録されている。

公式なのか海賊なのかわからないが、ドイツ(ただし、ジャケには「Made In England」というシールが貼ってある)のレーベルから、750枚限定でリリースされたザ・ゲロゲリゲゲゲの編集盤LPもそれと似た感触だ。タイトルのネーミングセンスも含め、デ・ラ・ソウルの1stとともに「これでいいんだ」と
初期暴力温泉芸者に影響(勇気?)を与えたであろう「Gero-P 1985」「Gay Sex Can Be AIDS」での取ってつけたようなハーシュノイズとサンプリング・コラージュ。以前、ゲロゲリについて書いたときにも触れたカットアップ「古川緑波」。初期グリーン・ヴェルヴェットの変態スポークン・ハウスを思わせる「Life document 2」、『パンクの鬼』をさらにしょぼくしたようなカウンティング・グラインド・ノイズ「All You Need Is An Audio Shock Pt. 1」などが、ただ雑然と溝に記録されている。

時代も立ち位置もジャンルも音楽性のベクトルも違う両者だが、(こじつけるなら)一つ共通する印象がある。それは自分が生み出したモノが一つの形となって、それがどういう形でも他人の耳に入れば、あとはどうでもいい、そっちの好きにしいやという姿勢だ。それはエリック・ドルフィーの遺作『Last Date』のラスト曲に入る有名な台詞「音楽は空に消え、二度と捉えることは出来ない」であったり、安藤昇の名曲「男が死んで行く時に」の一節からとられた、渡邉浩一郎の追悼盤のタイトル『まとめてアバヨを云わせてもらうぜ』という言葉が持つ意味とも同義であると思う。

無理にタグ付けするならば、ブラントおよびハイプ・ウィリアムスはシンセ・ウェイブ、ゲロゲリならばノイズというジャンルに属すると思うのだが、それぞれの看板を背負うほど際立った何かがあるわけではない。ジャンルとして成立する前──つまりは音楽として成っちゃなくとも完成形として出していく感覚が前につんのめってるように思える。それは思わせぶりなニヒリズムさえ入る余地もなく「ただ、自分が作った音が盤に刻まれている」ということ。てんでバラバラな一曲一曲が産み出すことによって生まれる混沌こそが、この2作の魅力なのだ。

年間ベストに入れたレイムや、ホワイトハウスのウィリアム・ベネットの別ユニット、カットハンズなどをリリースし、また、踊らせたいのか引きこもらせたいのかわからない選曲のDJミックステープで知られるレーベル、ブラッケスト・エヴァー・ブラック主宰者のキラン・サンデ(『Fact』編集者だったのには少し納得)は、『Resident Advisor』でのメールインタビューでこんなことを綴っている。

ハウスやダブステップのプロデューサーが創る音楽がほんとうは何のために創られているのかを厳しく追究する奴もいない。それが「何のために」という目的で創られているものじゃないし、そうあるべく創られたものじゃないってことを俺たちは暗黙のうちに了解してるからさ。でも、しばらくすると結局みんなそういう「何のために」っていう中味を知りたがるようになるもんなんだ。違うかい? いまのところ、俺個人としては挑発されていたいし、夢を見ていたいし、愚かに混乱させられた状態のままでありたいんだ。

個人的にはいずれも擦り切れるほど聞きまくるという類いのものではないが、愚かに混乱させられた状態のままでありたいときに、自分はこの2枚のレコードのいずれかに針を落とすだろう。

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L:Dean Blunt『The Narcissist II』(Hippos In Tanks HIT022)
R:The Gerogerigegege『All You Need Is An Audio Shock By Japanese Ultra Shit Band』(Audio Shock Recordings SHOCK1) 




実験とは挑発とは声をデカくして訴えるものではない

「悪かないけど、この人が持っているサウスやGファンク特有のドロっとした感じが無くなっちゃったな」
約2年ぶりとなるアウトキャストのビッグ・ボーイの2ndソロアルバムを聴いたときに、そんなことを思った。しかし、だ。本作を何度か聴いているうちに、ビッグ・ボーイが掲示した「これ」がいかに実験的で挑発的か、そして自分の頭がいかに凝り固まってるかにということに気づいたのである。

本作で特に強く印象に残るのは、クラウド・ラップを媒介としたUSインディ系を意識したような全体的な作風であろう。M-4「Objectum Sexuality」はまさしくそんな感じだし、M7「CPU」は四つ打ちの曲だが、ヒップホップ〜R&B系のそのテの曲が、もし銃が手元にあったら、それで撃ちたくなるぐらいのダサいトランスになるのに対して、この曲はベースライン・ハウスで、その上に乗る女性ボーカルがなんともヒプノティックな印象を受けるミニマルなトラックだ。それもそのはずでこの曲でフィーチャーされているファントグラムはNY出身のドリーム・ポップ・ユニットらしい(ユーチューブでライブ映像を見たが結構良かった)。そのファントグラムはM-10「Lines」ではエイサップ・ロッキーと一緒に共演。また、「Thom Pettie」ではキラー・マイクとリトル・ドラゴンが。「Shoes For Running」ではB.o.B.とウェーヴスが。「Tremendous Damage」ではボスコが……などなど、ジャンルの垣根をヒョイと乗り越えるような試みが、T.Iとリュダクリス、U.G.Kとビッグ・K.R.I.Tなどのギラついた南部の面々が参加している曲に挟まれて行われているのだった。

そういう意味で言えば、今の風潮に焦点を合わせたアルバムとも言えるが、'10年に自身が監修を務めたジャネル・モネイの『The Archandroid (Suites II and III)』では、R&Bを軸にしながらも、ポスト〜インディ・クラシックやガレージ・ロックを意識したような曲があったり、オブ・モントリオールが参加してたりするので、その延長線上で本格的に自分の場で好きにやってみた、ということなのだと推測する。

ただ、個人的に以前にも書いたようにインディ系と呼ばれるモノにあまり興味がないし、それらの融合と言うならば、もうじき出るエイサップ・ロッキーの新作が出たら、その惹句は取られてしまうのかもしれない、あっちはそれが標準仕様だから。さらに、もう一つダメ押しで言うならば、個人的には年末に日本盤が出たウィズ・カリファとスコット・ウォーカーの新作の素晴らしさには敵わないとさえ思う。しかし、師のドクター・ドレー譲りの正統的なGファンク的なベースラインとリズムに、クラウド・ラップ〜トリル・ウェイブ、インディ・ロック的な音楽性を無理繰り乗っけたような独特な音は、ビッグ・ボーイという人、というより磁場があったこそ出来たものであるのも事実だ。

所属レーベルとのトラブルにより、完成後3年も寝かした上で、やっとこさリリースされたものという背景もあってか、とかく評価が高かった前作の『Sir  Lucious Left Foot: The Son of Chico Dusty』の路線をそのまま踏襲すれば、今まで通りの評価を得ただろう。でも、彼はそれを選ばなかった。いや、選ぶことが出来なかったというのが正直なところではないだろうか。

ビッグ・ボーイは
インタビューで「ドクター・ドレーはとにかく挑む方法を教えてくれた。俺は単なる繰り返しは出来ないということを知ったんだ」というようなことを語っている。実験とは挑発とは声をデカくして訴えるものではない。「でも、やるんだよ!」。自分で思うままにやったらシレっと行われてることに醍醐味がある。本作はなにかを代表するアルバムではないかもしれないが、ミックステープ『808s & Dark Grapes II』がキッカケで、メイン・アトラクションズがピーキング・ライツやジャム・シティーといった他ジャンルのアクトをリミックスするという事態になったように、確実に年をまたいで、2013年に繋がる可能性を秘めた作品なのだと思う。

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Big Boi
『Vicious Lies and Dangerous Rumors』
(Def Jam)







BEST OF 2012 後半戦〜大体において、自分のセレクトは平凡、されど選んだ盤は非凡

10.Main Attrakionz『Bossalinis & Fooliyones』(Young One)
本作は確かに出世作『808s & Dark Grapes II』のようなパフュームをスクリューしてどうたらとかいう話題性はない。あるとしたらグッチ・メイン参加というぐらいか。なによりタダではない。最初に聴いたときは地味な印象だったが、Gファンクをフィルターに通してふわトロ化させたようなクラウディ・サウンドは持っていかれるし飽きなく聴ける。特別、凝ったことはしてないんだけど、シャブればシャブるほど味が出るアルバム。

09.Raime『Quarter Turns Over A Living Line』(Blackest Ever Black)
これも最初、良さがわからなかった。いや、スワンズとは違って、それなりに聴いた今でも本当に自分はこれを気に入ってるのだろうか、と疑問に思う。ブラック・メタルやヘヴィ・ドローンのマルチトラックから主要な音を抜き、オカズ的に入れた音だけで組み立てられたような感じ。なんなんだろう、これは? 音楽だと思う、一応。
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08.Aiwabeatz Is Tymeslyce『Low Blend Theory』(Blend)
2012年12月30日現在、未だに手渡し流通の模様。@aiwasoundsystem

07.Dean Blunt & Inga Copeland『Black Is Beautiful』(Hyperdub/ビート)
シンセやサンプラー(もしくはラップトップかCDJ)から飛び出す奇矯で断絶されたような音。観てる者はポカーンとして突っ立ってるだけ。その中の10人くらいがモッシュしかねないぐらい叫び声をあげて狂っている。ハイパーダブ・ナイトでのハイプ・ウィリアムスのライブはこんな感じだった……って、嘘。知らない。行けなかったから。
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06.Kendrick Lamar『Good Kid, M.A.A.D City』(Interscope)
このアルバムほど日本盤が出ないということが残念なアルバムはない。本作の評価の高さは確実にリリックの内容が伴ってあまりあるモノで、語学力がないであろう、僕も含めた大体の日本人には対訳が必要だと思うからだ。まあ、ここを見れば大体のリリックの内容はわかるが、コンセプシャルなストーリーテリングよりも、ドクター・ドレーが参加(制作ではなくラッパーとしてみたいだけど)していることもあってか、そのトラックメイクとミキシング、つまりはサウンド・デザインとしての完璧さに惹かれる。基本的に僕はショボかったり粗かったりするものに燃える性質だが、単にサンプルをループするのではなく、(たぶん)生演奏も織り交ぜることによって独特の厚みを加えている、本作のプロダクションはこれはこれで本当に素晴らしい。といっても、本作はオーディオ・マニアの為にあるのではない。やはり、これは低音でブリンブリンいわせてるような車のカーステで鳴らすべきウェッサイ・サウンドなのだ。まあ、僕は車はおろか免許もないためその確証はないのだが、なんとなくそう思う。

05.キエるマキュウ『Hakoniwa』(第三ノ忍者/P-ヴァイン)
実のところ言うと、マキュウはそんなにファンではなかった。しかし、10年ぶりに出された本作の素晴らしさったらない。成熟なんてぶっ飛ばせ!とばかりのザラついた質感の90年代ライクなトラックに、ねじが緩んで、というか飛んでどっかいってしまったようなリリックがたまらない。
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04.Andy Stott『Luxury Problems』(Modern Love)
前作の『Passed Me By+We Stay Together』が素晴らしかっただけに、最初に本作が女性ヴォーカル入りと知ったときは期待とともに不安がよぎった。しかし、それは余計なお世話だったようだ。ミニマル・ダブとR&Bという拡張著しすぎて全体像がボンヤリとしてるジャンルだからこそ、出会いべくして出会い、作られべくして作られた音なのではいだろうか。ブランディーとモーリッツ・ファン・オズワルド・トリオ(挙げていないがどちらもよかった)の新作の間にシレっと忍び込んだが如し。

03.Tomato n' Pine『PS4U』(ソニー)

昨日散開。次がないからこそ、より輝く。個人的には藤井隆、ボン・ボン・ブランコ、深田恭子、トミー・フェブラリーの1stと並ぶアイドル・ポップス珠玉の名盤。
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02.The Alchemist『Russian Roulette』(Decon)

ロシア音楽縛りでサンプリングしたからこそ、このタイトルとなったのであった。前衛やら現代やらのいかめしさや生真面目さではなく、バカバカしさとユーモアを拡大解釈したようなコラージュ・ポップ音楽。2枚組アナログまでついつい……。

01.Traxman『Da Mind Of Traxman』(Planet Mu/メルティングボット)

赤のトラックス・レコードのTシャツを着た男は目の前のラップトップの画面を見据えながら、いかにも909で作りました、というリズムとハイハットとベースラインだけのトラックをかけたかと思うと、ミキサーの縦フェイダーを断続的に上下させ、その音の切れ間に自分の名前をコールすることをフロアに何度も要求した。その度に応える客。男は満足げにニンマリとすると、フェイダーをあげて再びリズムトラックをフロアに流す。♪ドン、チー、ドン、チー。要はそれが基本。そこからはめくるめく素晴らしき世界が……。
 
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●OTHERS(EP/Reissue etc.)

■Lin Q「シアワセのエナジー/祭りの夜〜君を好きになった日〜」{T-パレット)
■Daphne Oram『The Oram Tapes, Vol. 1』(Young Americans)
■アップアップガールズ(仮)「アッパーカット!/夕立ち!スルー・ザ・レインボー」(アップフロント)
■クララ・サーカス『Klara Circus LIVE 1985-1991』(Pedal)
■CAN『The Lost Tapes』(Mute/ウルトラ・ヴァイブ)
■Love Apple『Love Apple』(Numero)
■奇形児「嫌悪」(ADK)
■Elbee Bad:The Prince Of Dance Music『True Story Of House Music』(Rush Hour/ディスク・ユニオン)
■バニラビーンズ「チョコミントフレーバータイム」(T-パレット)
■V.A.『Personal Space: Electronic Soul 1974-1984』(Chocolate Industries/Pヴァイン)
■ひめきゅんフルーツ缶「恋の微熱」(デューク)
■V.A.『Jerome Derradji Presents 122 BPM:The Birth Of House Music』(Still Music)


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BEST OF 2012 前半戦〜すべては悪い冗談

20.Shackleton『Music For The Quiet Hour/The Drawbar Organ Eps』(Woe To The Septic Heart)
昨年(2011年)の12月に初めてシャックルトンのライブを観た。ラップトップやミキサーなどの機材テーブルの前に身を縮込ませた彼は、低音が歪んだドローンノイズをかまし、そこにガムランのようなパーカッションを乗せたかと思いきや、駆け巡るサウンドエフェクトや沸き上がってくるかのようなベースラインとともに、四つ打ちからレイヴィーなハードコアブレイクビーツを乗せる。そのキックとハイハットは、彼がお気に入りに挙げるゴッドフレッシュのような鋼鉄/工業系のぶっとさに近かった記憶がある。2枚の12インチをコンパイルした、この限定2枚組ボックスCD(今、流通してるのは通常版)には、あの夜のグルーヴと同じものが詰められたかのよう。

19.OMSB  『Mr. "All Bad" Jordan』 (サミット)

「あの人はなに考えてるかわからない」という本作のエンジニアの方のボヤきを受けて、発売を楽しみにしてたのがこれ。ビートの打ち方もラップも狂ってる上に、変に前衛的にならずガシガシ首が振れるものでカッコイイ。特に7曲目の「Hulk」はどこかシンナーくさいサイデリック・カンパニー・フロウ。あと、イシュー(E-40の息子ということをインタビューで知った)がシレっと参加してるのもいい。
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18.ハハノシキュウ『リップクリームを絶対になくさない方法』(君の嫌いな物語/帝国レコーズ)
沈黙を語る人『リップクリームを絶対に隠さない事に決めた』(フリーダウンロード

17.Ital『Dream On』(Planet Mu/メルティングボット)
レビューを書いたあと、プラネット・ミュー主宰のマイク・パラディナスは、自らのミュージック名義の1stアルバムで、カール・クレイグに謝辞を捧げていることを思い出した。
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16.Frank Ocean『Channel Orange』(Def Jam/ソニー)

オッド・フューチャーのDJ兼エンジニアのシド・ザ・キッドとマット・マーシャンズとのユニット、ジ・インターネットのアルバムもそうだったが、声と音一発で持っていかれる感じ。フランク・オーシャンを選んだのはただの気分、なんとなく。

15.Nas『Life Is Good』(Def Jam/ソニー)

ストリングスをフィーチャーしたイントロに続き、ヘヴィーなベースラインとリズムがこちらに迫りくる、ノーI.D.プロデュースの「Loco-Motive〜Feat. Large Professor」だけでウワーッとなり、先行曲の「The Don」のビートとラップと音響だけで失禁寸前となるようなアルバム。ちなみにタイトルは故エイミーワインハウスとの不倫の末、ケリスから三行半を突きつけられたナズ自身を顧みて付けられたらしいが、語感だけで言うならば、イルリメの「元気でやってるのかい?」へのアンサーだと思う。
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14.Swans『The Seer』(Young God)
本作限定盤に付属のライブDVDで、マイケル・ギラが
エエ年こいてステージ上を転げ回りながら絶叫するシーンがある。その姿はNYのノー・ウェイヴ・シーンのドキュメント『Kill Your Idols』に収められていたスワンズのライブで、ギラは半裸にマイク・スタンドをギリギリまで低くして猫背になり絶叫していたのと被る。常に姿勢は低く、地べたに近く。そしてギャーッと叫べ。

13.東京女子流『Limited Addiction』(エイベックス・トラックス)

イントロのギターのカッティングがピッチを早めてベースラインとリズムと一緒に上り詰めていく。これだけでもう素晴らしいと思った。
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12.Xinlisupreme『4 Bombs』(Virgin Babylon)

「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインと初期ジーザス&メリーチェインとスーサイドとメルツバウの出会い」も「初期クランプス以来、最高のロック・ミュージック」もすべて比喩。シンリシュープリーム本人と話したことあるから言えるかもしれないけど、なんでこんな音が出来てしまったのか未だにわからない。

11.Big Strick『Resivior Dogs』(7 Days Ent. )
デトロイトのオマーSの従兄弟であるビッグ・ストリックの2ndアルバム、と発売時は告知されていたが、実は自曲を中心にジェネレーション・ネクスト、レックレス・ロン(デトロイトのレジェンドらしい)の曲も織り込んだコンピ、という方が正しいらしい。それはともかく、特筆したいのはデリック・メイのレーベル、トランスマットとの相似点だ。といっても、最近出たコンピに収録されたような華のある楽曲ではなく、サバーバン・ナイト、K・アレクシ、フェイド・トゥ・ブラックといった連中が鳴らしていた病みとである。骨組みと最小限の旋律だけで全部押し切っていくようなハウス・ミュージックの正統派ストロング・スタイル。

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■Roc Marciano『Reloaded』(Decon)
■Sun Araw, M. Geddes Gengras Meet The Congos『FRKWYS Vol. 9: Icon Give Thank』(RVNG Intl./P-ヴァイン)
■Ital Tek『Nebula Dance』(Planet-Mu)
■DJ Freak『The 7th Generation』(Death By  Hardcore) *free album
■Godspeed You! Black Emperor『Allelujah! Don't Bend! Ascend!』(Constellation/P-ヴァイン)
■Mouse On Mars『Parastrophics』(Monkeytown/ディスクユニオン)
■Young Smoke『Space Probe』(Planet-Mu)
■Distal『Civilization』(Tectonic/P-ヴァイン)
■Cut Hands 『Black Mamba』(Very Friendly)
■Silent Servant『Negative Fascination』(Hospital Productions)
■The Internet『Purple Naked Ladies』(Odd Future)
■Demdike Stare『Elemenrtal』(Modern Love)


お前の物語を人に押し付けるな!じゃあ、一体どうすればいいのだ?

フガジのイアン・マッケイ主宰のディスコードからリリースをしていたハードコア・パンク・バンド、ブラック・アイズのギター&ボーカルだったダニエル・マーティン・マコーミックのソロ・ユニット、アイタルの新作は、同じくプラネット・ミューから出た前作同様、強くダンス・ミュージックであることを強く意識したものであり、デトロイトへの敬愛をさらに深めた音ともいえる。

SE的に入る狂った電子音とつんのめった感じの焦燥的なベースラインとリズムや唐突な転調。そして、日本盤ボーナストラックの「Xlstfil」のように10分以上延々とドリーミーに引っ張っておきながら、ブチッと曲が終わって唐突にプレイヤーが停止して終わるといったラストが象徴するように、本作はとにかく野放図でフリーキーで雑。そして、ジャケのアイタル本人制作のコラージュのように、どこか整合感がなくアンバランス。

『エレキング』のインタビューによれば、ムーディーマンやセオ・パリッシュ、オマー・Sなどはもともと好きだったらしいが、むしろ、もっとオールド・スクール、例えばカール・クレイグのサイケやBFC名義で出していた初期作品群に共通するものを本作に感じる。

ものはついでに。カール・クレイグには個人的に思うことがある。リアルタイムで聴いてたわけではないけど、クレイグがサイケ名義で出した「Neurotic Behavior」こそ、デトロイト、いや、テクノというジャンル全体にとっても、異色かつ重要な曲の一つなのではないか、と。

なんだかんだ言いながらもテクノはハウスを軸とした音楽だった。ダンス・ミュージックであることが前提。同曲も最初に世に出たのはオリジナルではなく、師であるデリック・メイがリズムを付け足したエディット・バージョンだったように(今となっては蛇足という言葉がピッタリだが)、そのジャンルにおいてシンセだけで音楽を作ろうという行為自体が、当時はかなり異色だったような気がするのだ。この曲を作った際、ドラムマシンを持ってなかったから、という単に物理的理由もあったようだが、チル・アウトという言葉にもアンビエントという静謐なイメージにもどこにも絡まない(絡めない)ような奇形音楽という感じがするのだ。

アイタルの音楽にも同種のそれを感じる。本作はインディ・ハウスというタームで売られているようで、僕はここらへんのシーンについてはよく知らないけど、ブラック・アイズがギター、ベース、ドラムというバンドの格闘だとしたら、バンド解散後、TR-707をはじめとした機材を手にしたという彼がやってることは、シンセサイザーやドラムマシンといった電子楽器のチャンス・オペレーションと言うべき一人きりの格闘なのだ。ここに収められた8曲はビートこそあれ、自分が思うようにシーケンスを作っていたら出来てしまったという点において、新たな「Neurotic Behavior」なのではとさえ思う。

まあ、以上の論は大げさかもしれないし、テクノはともかくUSインディには全く詳しくないけど、10数年前、トータスの曲をデリック・カーターがリミックスした12インチEPを高田馬場のレコファンの面見せの棚からニヤニヤして抜き、その数年後、ダンス・ミュージックを自らの血肉として現したザ・ラプチャーやジェイムス・マーフィーといったDFAレーベルのレコードをあちこち探しまわった我が身を振り返ると、今はここまで来たんだと妙に嬉しくなる一枚だ。

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Ital
『Dream On』
(Planet Mu/Meltingbot)



ブロークン・フラッグのもとに集いし連中とマシューデヴィッドが抱える共通の歪み

自分を囲む円の外で鳴る、なんとも言いようがない曖昧とした音の存在──ラムレーが主宰するノイズ/インダストリアル・レーベル、ブロークン・フラッグの初期カセット作品をコンパイルした5枚組のボックスCDを聴いて聴いていると、そんな思いに駆られる。M.B.ことマウリッツィオ・ビアンギ、アンコミュニティ(正体はマッカーシー〜ステレオラブ結成前のティム・ゲイン)、コントロールド・ブリーディング、メイル・レイプ・グループ、ル・シンディカト、ジャンカルロ・トゥニウッティ、マウトハウゼン・オーケストラ、クリストウォー(以上、ところどころ読み方自信なし)。そしてアーリーズとして括られて収録されたコンシューマー・エレクトロニクス、ザ・ニュー・ブロッケイダーズといった連中が作り出す音は、同時に自分なりに魅力的な音と響きを創ろうとすればするほど、雑音の塊を産み出してしていくような「歪み」から生じているのだろう。

閑話休題。先日、LAを拠点とするトラックメイカー、マシューデヴィッドが来日を果たし、ライブとともにワークショップを行った(2012年12月9日:芝浦ハウス)。実は彼の曲はコンピでしか聴いたことがなかったのだが、そこで語った自身の音楽制作の話が興味深かった。彼はPCのソフトウェアで音楽を作ってるのだが(そのソフト名は失念)、まず1曲出来上がるとそれをカセットに録音する。そして、その録音したものをPCにまた返す。それをまたカセットに...を繰り返すのだ。その作業の途中にはテープスピードのピッチを遅くしたり、コンプレッサーやディレイをかけたり、サンプラーを通したり、さらに音を足したり引いたりしながら仕上げていくのだという。

しかし、彼がやってる手法が斬新なものかというと疑問が残る。個人的にはダブやミュージック・コンクレート、スクリューなど既成の音響テクニックの応用でしかないように思うからだ。しかし、自らの音楽が既成の文脈の上に成り立ってるなんていうことは、「パンクやローファイにも影響を受けている」といった当日の発言や、僕が彼に興味を持つキッカケともなった『エレキング』(Vol.5)のインタビューを読む限り、わざわざこちらが書かなくとも、彼自身がとっくに自覚しているフシがある。むしろ「そんな細かいこたあどうでもいいじゃん」とこちらをせせら笑うだろう。

「私はクリシェ」(X-レイ・スペックス)

当日、物販で買ったのが一緒に来日したアネノンとの共作とお互いのソロのスプリット・カセット。前者はアンビエント・ドローンで、後者は大雑把に言ってしまえばそれにリズムを加えてでっち上げたようなビートもので、曲自体はやはり習作というのか「とりあえず、こんな感じでやってみました」感が強く、特筆すべきものはない。しかし、カセット特有のヒスノイズに包まれた独特な音像にはしっかり心を掴まれるのだ。

マシューデヴィッドのオリジナリティとは作曲そのものではなく、加工して作り上げた音像にあるのだと思う。その証拠に彼はこういう風にビートを組んでとかメロディがどうだのという、作曲についての部分についてはほとんど語らなかった(加工のほうに質問が集中していたというのもあるが)。既成の文脈に則りながらも、その上で「音楽というよりも、いかに曖昧で歪んだ音像を作り出していくか」という部分に重点を置いたような姿勢は、前出のブロークン・フラッグに引きつけられるように集まったM.B.以下のノイジシャンたちと共通するのではないだろうか。

ちなみにワークショップ後に行われたライブは、カセットでの作風をさらにチャラくさせたような、変態的な怪しい色気を感じさせる電子音と、TR-808っぽい乾いたビートを組み合わせたサウス系ヒップホップ風だった。その音の構造こそ潔いまでにスッカスカだが、ベースが異様に出ており、ライブ開始後5分くらい経った頃だろうか、その低音の鳴りでPA卓にあった照明の電球のカバーがパリンと音を立てて割れたのだ。それを目撃した僕は人知れずガッツポーズをしながら、何かで読んだカーティス・ブロウの発言を思い出していた。

「TR-808の低音のフィルターを全開にすると、家のステレオもカーステも全部壊れちまうんだ。というか、俺たちはそうすべきなんだ!」(大意)

もちろん、PAミキサー自体の設定ミスだとはわかっているが、そのアクシデントでさえマシューデヴィッドが抱える「歪み」が引き起こしたものだったんだと、あれから一週間経った今も妄想が止まないのだ。

matthew1jpg.jpg matthew2.jpg brokenflag.jpg
左:Matthewdavid & Anenon(レーベル不明)
中:Matthewdavid / Anenon『Toki』(Day Tripper/DTR-C006) *split
右:V.A.『Broken Flag: A Retrospective 1982-1985』(Vinyl-On-Demand)





↑なぜ、ノイズのイベントでインナーシティの「Good Life」がかかってるんだ? そして意外とみんなノリノリ...

僕はシンリシュープリームのライブを観たことがある

僕はシンリシュープリームのライブを観たことがある(*1)。

エレクトロニカからテクノ、フリーフォーク、果てはノイズやギターロックまで、一貫性のないリリースで賛否両論だった頃のファットキャットから突然デビュー。そして大分在住ということもあり謎も多く、一体どういう人がやってるのかという興味もあっただろうが、当日集まった客はなにより「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインと初期ジーザス&メリーチェインとスーサイドとメルツバウの出会い」とも称された音が、ライブでいかに演奏されるのかにあったはずだ。

何の変哲もないドラムセット、ただし、そのスネアの上にはギターが置かれている。そこに座った男は何の変哲もないフレーズを叩き、そしてギターを打楽器のようにスティックで叩く。

♪ギャーーン

エフェクターを通したギターノイズとその残響音をバックに男は単調なフレーズを叩き、頃合いを見て、またギターを叩く。

♪ギャーーン

僕が記憶している限り、シンリシュープリームのライブはこんな感じだった。ホントはギターによる弾き語りやセッションなど色々やっていたはずだが、あまりよく覚えていない。ただ、困惑していた。それはあまりに既存の楽曲と違っていたからだし、インプロということを加味しても、あまりになっていなかった。それは僕だけではなく、そこにいたほとんどの客は同じ思いだったように思う。

シンリがあの場でやりたかったことがなんとなくわかったのは、その3年後、プンクボイを前座に添えた想い出波止場の復活ライブを観た時だった(*2)。山本精一、津山篤を始めとした想い出波止場のメンバーは、既存のレパートリーをほとんど演奏しなかった。いや、やったかもしれないが、ギター、ベース、ドラム、サンプラーを使って、楽曲として練られ作り上げられる原型みたいな、音の断片をそのまんま、時には執拗に反復することによってずっと演奏し続けたことの方が記憶に残っている。つまり、あの時のシンリのライブはその一人バンドバージョンだったのではないかと。

シンリの音作りについては不明だが、本人の話から推測するにメンバーとして二人の名が記載されている1stアルバムでは、友人とのセッションテイクや自分で打ち込んだシーケンスをソフトウェアで組み立てたようだ。つまり、あのライブはミックスされる前の断片を、シーケンサーの自動演奏に頼らず、ギターとドラムを使って演奏することによって、想い出波止場と同様に自らの音の本質や魅力をあぶり出していく行為だったのではないだろうか。そんな風に思ったのだ。

前置きが長くなった。本作はワールズエンド・ガールフレンドのレーベルから出たシングルである。かつてフリーダウンロードで配信された楽曲群より5曲を選び、さらにアレンジ、ミックスを練り直したのだという。

M-1「Seaside Voice Guitar」でのボーカルをもかき消すようなハーシュノイズのインパクトが強いこともあってか、一部ではそっち系でとして評されてるようだけど、全体を通して聴くと、それよりもマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Loveless』で、ケヴィン・シールズが執拗なアレンジとミキシングへのこだわりにより、無意識に表出したエラー・ミュージックとしての側面と共通するものを強く感じる。その過剰さを何かジャンルにあてはめるなら、アンディ・ウェザオールが1stアルバムのリリース時に「初期クランプス以来、最高のロック・ミュージック」という称賛を寄せたように、一つ一つの断片をこの上なくけたたましく鳴るように尖らせ、殺傷能力を高めた兇悪なガレージ・ロックなのだと思う。

最近出た、奇形児の7インチEP『嫌悪』(ADK/Crust War)は、ガジ〜サーモのメンバーだった君島結のエンジニアリングにより、ADKレコードの主宰者だった故タムのそれを思わせるガビガビな音像で、聴いた者の心に残留感を与えるような代物となっていたが、シンリシュープリームもまた然り。あの時、一緒にシンリのライブを目の当たりにした数十人の観客のうち、どれだけの人が本作を聴いてるのかはわからないが、あのライブと同様に「自らの音の本質や魅力をあぶり出す行為」として、被弾したこちらに言いようのない残留物しか与えないのである。

*1:2006年6月25日、『Music Is Free』@西麻布バレッツ
*2:2009年6月8日、新大久保アースダム


xinli4bomb.jpg
XINLISUPREME
『4 Bombs』
(Virgin Babylon VBR-009)



音質やミキシングが産むオリジナリティ

新旧のカルトなブラックメタル〜デスメタル系を中心にリリースする、ニュークリア・ウォー・ナウ!という、ヨウスケ・コニシなる日本人がアメリカでやっているレーベルがある。数年前、ハマった時期があり、ちょこちょこ買ってたのだが、2009年にベルリンで行われた同レーベルの初めてのフェス〈Nuclear War Now! Festival〉の出演者によるコンピレーションを最近聴き直したとき、自分がこの作品においては個々のバンドの楽曲ではなく、そのレコーディングをした環境と使用機材が生んでしまった音質やミキシングのバランスを重点的に聴いてるのではないか、そんな風に思ったのだ。もちろん、ジャンルがジャンルだけに、どの連中もいわゆる「RAW」を追求してるのだが、それなりにちゃんと録ってるものもあれば、異様にモコモコしていて出音が低いものもあり、個々でOKとしている音の定位感が全く違うのだった。そこに僕は音楽性以上オリジナリティを感じたのである。

だとしたら、今年の〈B-BOY PARK〉に合わせ、ユッカなる女性がツイッター上で楽曲を募集して制作/販売された『かなへびコンピ』なる、アンダーグラウンド日本語ラップ〜ヒップホップ・コンピも、先物買いというのもあるが、「音の定位感」という本来の目的からズレてるであろう範疇でも楽しめた作品である。

ラップやトラックそのものよりも低音が異様に目立ってしまっている曲(意外に多い)。トラックのシンセの高音がキツ過ぎて、肝心のラップより目立ってしまってる曲。カセットMTRで録ったのではないかと思わせるロウな音質な曲。逆に異様に出音が大きい曲……などなど、パソコンの同じようなソフトウェアを使って制作・録音されたものだろうと思われるにも関わらず粗っぽくバラバラ。一応、ヒップホップというバトル性が強いジャンルということもあって人気投票も行われたようだが、むしろ、僕は個々の曲に「良い/悪い」の上下ではなく左右の違いというものをそこに感じた。日本語ラップ〜ヒップホップの基本である「ラップの技術」とか「トラック制作の云々」とかの約束事は向こうに置いたうえで、ニュークリア・ウォー・ナウ!のコンピ同様、音質やミキシングが個々のアーティストのオリジナリティを示していると思わざるを得ないのだ。

いや、オリジナリティで言うならば収録曲そのものだけではなく、制作者その人にも言えるのかもしれない。今のヒップホップシーンの主流であるミックステープやバンドキャンプを使ってのネット配信ではなく、わざわざCD-Rに焼いて500円で売るというアナログさ。そして、なによりも自筆のイラストによる、このジャケットだ。モノクロのコピー印刷というのもあるかもしれないが、その絵柄はヒップホップというよりも、カムズや奇形児、ソドムなどの初期ジャパニーズ・ハードコア・パンク。もしくは前出のヨウスケ・コニシだったら勘違いして喰いつきそうな異国のプリミティブ系ブラックメタルといった系統に通ずる匂いを発しているのである。ちなみに本作はあるイベントで知り合いにユッカ女史を紹介され直で買ったのだが、彼女自身はあくまでヒップホップが好きで身銭を切って作っただけで、そういうハードコアやブラックメタルに関しては全く知らないようだった。

いや、何を知ってるか知らないかなんてのは、全くもってどうでもいい。確かに失敗しているところはある。未熟なところもある。チグハグで噛み合ってないところさえある。突然段ボールのアルバム名じゃないが、本当に「成り立つかな?」。そして、その?マークはどこまでもつきまとう。しかし、本作の一番の魅力とは、携わった各人が無意識のうちに持っているアンバランスさが産み出すパワーだと思うのだ。表現そのものよりも、それを送り出す方法論ばかりが取りざたされる昨今、愚直なまでに「自主制作」であることを感じさせてくれる愛すべき盤である。

ちなみにさっき「上下ではなく左右の違い」と書いたが、それでも一つ個人的なお気に入りを選ぶならば、M-7のALOHER「Kaello Canah」がグッと来ました。


kanahebi.jpg NWN.jpg
L:V.A.『かなへびコンピ』(かなへび屋)
R:V.A.『Nuclear War Now!』(Nuclear War Now!)


解剖台の上のミシンとこうもり傘の偶然の出会いは美しい

そのすべてをチェックしてるわけではないが、少なくとも近作のオー・ノーとのユニット、ギャングレーンのアルバム。そして、かつてのカレンシーはもちろんのこと、オッド・フューチャーのドモ・ジェネシスとのWネームによる最新ミックステープ『でも、ネタはどうであれ、愚直なまでにワン・シーケンスをループする「90sヒップホップ」の魅力をキープし続ける男、というイメージが強かったジ・アルケミスト。しかし、ソロとしては約3年ぶりの新作となる本作に関して言えば、自らのトラックにラッパーを起用して出来た曲で構成する、という形式から逸脱した制作方法(錬金術)をとったためか、世にも奇っ怪なシロモノとなっている。

フリージャズやサイケデリック・ロック、どこの国とも知れないポップス、ソウル、フォーク、ライブラリー・ミュージックなど(と思われる)のレコードを次々とターンテーブルに乗せ、その盤の溝に盲滅法に針を落とし、そうして取られたサンプルをエディット組み立て、45分のコラージュが出来上がる。さらにそれを30のトラックに分け、そこにロック・マルシアーノ、エヴィデンス、ギルティ・シンプソン、ダニー・ブラウン&スクールボーイQ、ウィリー・ザ・キッド、アクション・ブロンソン他多数のゲストラッパーの声を適当にハメこんでミックスダウン、以上!  という感じ。

もちろん、その通りに作ったわけではないだろうが、サンプル素材と各人のラップとフロウを一つの音と捉えたチープでザックリとした質感の音声詩+テープコラージュ、と言ったほうがピッタリとくる本作は、自身が
『HipHopDX』のインタビューに答えて「メーン! もし、アンタがこのプロジェクトについてのプロトゥールズのセッション画面を見れば、オレのことを正気じゃないって思うだろうね」と豪語しているように、まさしく「解剖台の上のミシンとこうもり傘の偶然の出会い」のようである。

「解剖台〜」とは、後のシュールレアリズムにも影響を与えたと言われる、ロートレアモン伯爵の散文詩『マルドロールの歌』の中での1フレーズから引用した有名な比喩だ。基本、学がないので恥をしのんで言うと、その作品は読んだことないし、周辺知識もゼロに近いのだが、ナース・ウィズ・ウーンド(NWW)の1stアルバムの題名『Chance Meeting on a Dissecting Table of a Sewing Machine and an Umbrella』の由来となっている事だけは知っていた。まあ、そのまんまなのだが、実際、このアルバムを始めとした初期NWWの音は、中心人物のスティーブン・スタップルトンが、同作のインナーに記載されている
〈NWWリスト〉に載ってるアーティストの音楽をまんまコラージュして作り上げていたという話がある。もちろん、アルケミストがNWWを意識していた事実なんてどこにもないが、前出のインタビューをなんとなく斜め読む限り、本作に関して言えば、サンプリングというより、カットアップ/コラージュという手法の方に自覚的なようだ。

ちなみに、僕はシカゴのジューク/フットワーク・コンピ『Bangs & Works Vol.2』収録のDJ Tホワイ「Orbits」でも、初期NWWを比喩として使っているが、それはノイズ〜前衛音楽におけるカットアップ/コラージュが政治的や批評的な論理が前提してあるのに対し、NWWの場合は対象の音そのものが持つ魅力が先にあるように思うからだ。中原昌也が初期NWWを紹介するときに引き合いに出したピチカート・ファイブに代表される渋谷系のように、とどのつまり「自分が好きな音楽を引用すればイイ音楽が作れる(かも)」ということ。年代やジャンル、制作方法の違いこそあれ、その元も子もない原則において、アルケミストの本作でとった手法とNWWの存在は点と線で繋がるのだ。

とはいうものの、僕は別にアルケミストおよびヒップホップをアヴァンギャルドと結びつけて悦に入りたいわけではない。90年代後半のNYで、その二つを意識的に結びつけた〈イルビエント〉なるムーブメントがあったが、個人的にそれらはどこか鼻につき、興味を覚えることはなかった(センセーショナルの1stやクレイジー・ウイズダム・マスターズの10インチEPなど、
ジャングル・ブラザーズの3rdがメジャーでお蔵入りになったことにより生まれた鬼っ子的諸作をサポートし、DJ/ラプチャーが出てきた場なわけだから否定はしないけど)。そもそも、自分で持ち出しときながらなんだが、アヴァンギャルドという概念自体、現代にどれだけ有効性があるのかも疑わしいし、NWW/スティーブン・スタップルトンよりも他にもっと適した比較対象がいたかもしれないとも思う。それでも、本作にそれらの単語が頭をかすむのは、「なんだかよくわからないが、新鮮な驚きを与えてくれる音楽」へのプリミティブな衝動と可能性をビンビンに感じるからなのである。

alchemist.jpg
THE ALCHEMIST
Russian Roulette
(Decon DCN-162)




色々書いたが、要はこのPVのように、いろいろとチープでテキトーでザックリした感じです(ネタにGGアレンと『コドモ警察』が!)。
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PRE//SILENTNOISE主宰者。
RECORDer編集長。
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